特にBとかNの辺り

タイピングの練習をずっと続けている。朝な夕な、職場にて衝撃デビューを果たした新人であるところの俺の姿を想像しながらキーを打ち続けている。結果画面に表示される「B+」はこの際見なかったことにしよう。いくつか分かったことがある。俺にブラインドタッチの才能が無いかもしれないこと。もはやブラインドタッチという言葉は廃れ、タッチタイピングという名称に置き換わっていること。それに加えてもう一つ、支持されたとおりタイピングをこなすだけという作業は、それはそれは苦痛を伴うのだということ。やるぞ!という威勢を持って臨むとミス時のビープ音で苛立ちメーターがもりもり上昇するので、自意識にフィルターを入れねばならなくなるのだがこれがいけない。自分の意志の介入する余地の全くない作業とは、まるで掘った穴をまた埋めるようなものなのだ。

何が悲しくてモアイ像やらペットボトルカバーやら自己啓発じみた文章をタイプし続けなければならないのか、これも自意識を薄める要因なのだが。2時間ほど座り続け無心でカタカタ言わせているうちに、スッと後頭部あたりから糸のように魂と呼ぶべきものがするすると抜け出ていくのが感じられたので練習を中断した。評価は大体B+からAの間。アルファベットの上にもランクが存在するので業務用タイパーには程遠い。2時間かけて俺は弱点をただ晒し続けていたのか?結果画面にはランクだけでなくミス数はもちろんのこと苦手なキーまで表示してくれる。様々なキーが壁として立ちはだかっていることが分かるが概ねどのトライでも「A」「E」「O」が並んでいる、見事に母音だらけ。ボインだらけじゃん!などと喜ぶ俺の中の中学生はもはや死滅した。「あともう一回だけ、を繰り返そう」「練習すればした分だけ上手くなる」結果画面におまけで出てくる励ましの言葉ももう見飽きた。自意識を持つと自尊心が失われ、自意識を捨てると魂が失われる。かつてない板挟みの中、ただ一つ分かっていることは、これからもキーを打ち続ける必要があるということだけだ。インターネット老人を自称できるほど長く付き合ってきたがこれほどキーボードと向き合ったことは無いかもしれない。掃除とかした方がいいかな、すっげー汚いこれ。