水をのむひと

最近は水ばかり飲んでいる。不健康な色素と原料がふんだんに含まれた液体にしか口をつけなかった少年時代を思えばこれは大きな変化だといえる。高校時代、自動販売機で水を購入する友人のことを理解できていなかったのだが今ならば彼と分かり合える気がする。長い時間をかけて俺たちは親友になれたのだ、連絡先は分からないが。

水は美味い。この真実に至るまでやや年月を要したが、自ら進んで水をメインの水分とした訳ではない。当初はただ健康上の理由からだった。気になる腹回り、摘まんでみると伝わるソフトな感覚。日常の所作にどことなく重さが加わった気もする。ファンタスティックな尿の色、とどめは鏡越しに目が合ったたるんだ頬の持ち主。ゆるキャラと言い張るには目の光が絶望的に足りていない。目を閉じれば走馬灯のように浮かび上がる高カロリーな胃の内容物の群れ群れよ。痩せねば。まずは食生活の改善から、と己の現状を認識した時点ではとりあえずお茶を飲むようにしていたのだが「清涼飲料水ばかり飲んでいる」というチェック項目が保健体育の教科書にあったことを思い出す、そして常飲しているお茶のパッケージに刻まれている「品名:清涼飲料水」でトドメ。俺には水だけが残された。

以上のようなややネガティブな理由から水を飲むことにしたのだが、最近になって水そのものの味を感じられるようになってきたのである、歳を取ると体に良いものを美味いと感じるようになるというアレか。まだ若いと自分に言い聞かせ続けてきたものの年齢という数字以上に体がそれに答えてしまっている。ジャンクフードに囲まれた甘い生活を送っていたのにも関わらず骨と皮だけだと揶揄されてきた中学生時代、今まさにそのツケを支払わされているが、水を美味く感じることのできる脳を手に入れることができた。今年は痩せる。そうこうして文章が延びている間にもコップの水が無くなり、また注がれてを繰り返すこと数回。水が美味い。先週あたりから晩飯を抜いて代わりにドライフルーツを摂取する日も出てきた。俺は何になろうとしているんだ、という疑問をかき消すほどにああ、水が美味い……