痛といえば覚

歯を抜くことになった。

いわゆる親知らずというやつなので生活上全く困ることはないのだが。歯ブラシも届かないような口腔の奥まった箇所に生えたせいで虫歯が進行し、その上歯ぎしりによって満を持して欠けてしまったので。今のところ痛みはないものの将来的には出てくることもあるだろうし、そもそもが要らない歯ゆえに抜いてしまった方がいだろうと。行きつけの、という言い方が正しいかも分からんが幼稚園時代から通い続けている、トイレがいまだに和式便所の歯医者。人為的に抜いた乳歯は全てここで抜いてもらったので割と信頼しているつもりではあるのだが、永久歯を抜くというのは初めての経験でありかなりの恐怖がある。顔が大きいことの数少ないメリットの一つとして親知らずが歯並びに馴染むということがある、と思っており、そういう意味ではこの遺伝子を与えてくれた両親に感謝していたのだがここにきての虫歯と破損のコンボが決まってしまった。

先でも述べたが、歯科の先生を信頼はしている。いずれはこの親知らずも抜かなければならないことも分かってはいる。それでも怖さが消えてくれない。親知らずを抜くために入院し退院後に「顔が倍に腫れた」「熱が39℃も出た」、麻酔をしていても抜歯時の感覚は普通に伝わってくる、などの知人たちのエピソードがフラッシュバック。何となく、少年時代には人間は大人になれば痛みに対して耐性が付くものだと思っていた。転んで擦り剝いてできたかさぶたを眺めながら、成長すればこのひりひりした感覚は鈍くなってやがては消えてしまうものだと思っていた。胃カメラ体験談なども読みながら、いずれは飲むことになるのだろうとぼんやり考えていたものだが。20余歳になろうというのに痛みに全く慣れる様子がない。転べば打った箇所は青く腫れて痛む。爪を切りすぎて巻き爪になれば痛む。目薬を注すのもちょっと怖いくらいだし、胃カメラに至っては飲む日が来ないことを祈り続けるばかりだ。いずれはこの歯は抜かなければならない。それは分かる。じゃあ、今月中にまた来ます。そう先生に告げたあの時の俺よ。シャドウバースを実際にプレイしたことはないが、動画で聞いたことがあるウォーターフェアリーちゃんの真似をしながら布団に包まっている。痛いの嫌いなの!痛いの嫌いなの……