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一握りの思い

鳥五目おにぎりが好きだ。大学構内にある生協のコンビニで出会ったのを初めに、そこで買う鳥五目おにぎりを昼食に欠かすことはほとんど無かった時期もある程だ。友人たちが手軽な弁当だけで済ませるところにわざわざジャンボおにぎり鳥五目味を追加して食べ過ぎの烙印を押され、事実行き場のないカロリーは俺のわがままボディの一部を成している。ジャンボおにぎりとは大学生協が出しているおにぎりのことで、通常サイズのものと比べても一回りサイズアップしているにもかかわらずお値段は100円(税抜)とリーズナブル。俺の学生生活においてジャンボおにぎりが占めている割合は小さくはないが、それも永久に続くわけではない。学年が進むと学部棟で過ごす時間が増え、すぐ近くの学食がコストパフォーマンス的にもピークの人口密度的にも優れていたため、次第に生協のコンビニに通わなくなるとその蜜月も打ち切られることになった。

切らしたレポート用紙やら何やらを買い足しに大学構内の購買に行ったのはちょうど1年前くらいのことだろうか、必需品のついでに久々に鳥五目おにぎりも買おうかな、と食品の陳列棚に向かった俺を迎えたのは大量のジャンボおにぎりツナマヨ。一面に広がるツナマヨをかき分けて探してみてもそのその景色が変わることはなく、ジャンボおにぎりはその進化の過程でツナマヨ以外の味が絶滅したという事実だけが突き付けられた。所謂期間限定というものだろうかと現在に至るまで定期的に陳列棚を漁ってみるもやはりツナマヨのオンステージである。近所のセブンイレブンに鳥五目おにぎりが並んでいることに気付いてからちょくちょく通うようにしてみたもののこれも2,3か月で姿を消してしまった。俺は時代に取り残されてしまったらしい。失って初めて物の大切さに気付く、俺の場合にはそれはおにぎりだったという話。

この際だからはっきりと言うと、ジャンボおにぎり鳥五目味はあまり美味しくはない。大きさと安さがウリという点からもこのことは演繹可だろうがそれにしても美味しくない。米はベチャベチャとしており、巻いてある海苔もどこか湿っていてパリパリ感が微塵もない。味付けもおにぎり全体で均一ではなく味の分布がまばらになっている上に大抵の箇所が味があんまりしない。ガチャガチャという騒音を立て、蒸気を吹き出しながら機械が何とか米と海苔を丸めている様が浮かんでくる、そんな味だ。現在大学付近のファミマに鳥五目おにぎりが並んでいるので、あたかも絶滅危惧種を保護するかのように足繁く通っているのだが、これはジャンボおにぎりに比べたら大変美味い。米の一粒一粒が立っていて海苔も食感がよく、だし醤油と具の味がよく染み込んでいる。美味い。食べた回数が少ないので記憶がおぼろげだが、セブンイレブンのものもジャンボに比べたら美味いはずだ。だが叶うことならもう一度あの安くて大きいことが取り柄の、ジャンボおにぎり鳥五目をもう一度食べたいと思う。ベチャベチャの米と海苔とを咀嚼し、嚥下したい。美味いものを食って不味いものに思いを馳せることを俺は止められずにいる、あるいはそうすることしかできないとも言える。