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磯臭創世記

海苔が道路にへばり付いている。早朝飯を買いに行くコンビニを少し遠い場所に変えただけでこの珍事。何せ遠目に見ても海苔と分かるほどの存在感、大きさも青のりや刻みのりなどといった脇役クラスではなく大判サイズのワンカットだ。まだ高くない朝の日差しを受けててらてらとした光沢を見せつけ己の新鮮さをアピールする、路上で。ちょっと強い程度の風ではびくともしないほどに地に根付いているので、多少なりとも長い時間をコンクリート上で過ごしているらしいことが伺える。前日までの雨風に晒され表面が危ない菌などに侵されてもはや食品としての価値を失い、ただただ朽ちるのを待つばかりとは思えないほどのツヤであった。神は「光あれ」と言ってその次に「海苔あれ」とでも言ったのであったか。路傍の石雑草などとは違うという気概が一目で伝わってくる。出会ってすぐは黒いコイツの存在感に圧倒されるばかりであったが、しばしのにらみ合いの後に周囲を見渡して一体何処からこの海苔が飛来したのかを探ることにした。が、目立つ建物はステーキガストくらいなもので大判の海苔を扱っているかどうかは怪しい、そうなるとやはり道路に隣接したマンションが最右翼であろうか。試しにとその各部屋のベランダを可能な限り調べて見たが、海苔を干しているような住民は見当たらず。まあ、当然というか。これくらいの海苔ならば部屋の窓を己の意思でするりと抜け出すくらいはするのかも知れん。体のツヤを保つことに精いっぱいで着地して間もなく力尽きてしまったのがなんとも残念ではあるが。

朝飯を買い終えて、家に戻る路上でもまだ件の海苔は磯臭さを視覚からも伝えてきていた。そりゃあそうか。あれだけの黒光りでこの場所への執着心を訴えているのだからコンビニに行って帰ってくるまでの5分そこらで離れるはずもない。あそこをあの海苔は死に場所に選んだのだろう、もっともその死がいつ訪れるとも分からないが。我々人類が滅びた後も未来永劫に残り続けて、何だったら化石にもなって欲しいし、それを見付けた後世の考古学者が「この辺りは一面海だったんだ!」とかも言って欲しい。