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68 夏炉夏炉

暑い。しかし俺の足元ではストーブがごうごうと燃えている。

5月も半ば。俺の性癖カミングアウトに期待が高まる前に念のため説明をしておくと、暑いから半裸という名の薄着でいたところ寒かったのでストーブを入れたら暑かった。それだけの話。あまりに理路が整然としすぎていて自分の施した文章に感涙溢るるばかりだが、今の俺の姿はといえば左手で団扇を扇ぎつつ右手一本でキーボードを操作、その間にも唸りを上げるストーブ。結びの部分に「なーんだ?」を付け加えてみたところ、見事になぞなぞの世界にしか存在しない珍獣へと変わり果てたので辟易した。俺は自然体でありたいだけなのに世界はそれを許さず珍獣扱い。平成の山月記か。

ここ最近の気候もおかしい。台風が迫り時季尚早にも直撃かと思いきや焦らすようなソフトタッチ、雨だけを降らして温帯低気圧に早変わりという茶目っ気を披露、あとにはただ湿気だけが残り確実に名古屋の不快指数が右肩脱臼レベルで上昇。雲がかかって薄暗い時間帯も多いためか家の中で服を一枚脱いだだけで心中チアノーゼをおこすほどに肌寒いが、いざ外に出てみるとアスファルトから熱が立ち上りちょっとした肉まん気分になれる程度に蒸される。それでは再び屋内に避難だ、と大学で学科一同揃って講義を受けていると群集から巻き起こった熱対流が教室に発生する、この状況はいったい何だ。まただ、またなぞなぞっぽくなってしまった。もうやめてくれ。

ということで、ストーブを点けたり消したりする、というIQ控えめな打開策を採用するに至っている。これで下半身に向かう熱量は一定に保たれ快適度も損なわれるということはないだろう、と思っていたのだがいくら平均で見て快適だからと言って桃源郷と世紀末を反復横跳びしている現状がそうであるはずもなく。脛に熱帯雨林が芽生えたかと思えば足の指から感覚が失せていく、この繰り返し。しかし上半身には依然としてパソコンの放射熱がぶつけられ続ける、団扇を扇ぐ手が止まらない。奇策として足でキーボードを打つことも吝かではないが、手汗以上に被害が酷そうなので今回は見送ろう、それでは代わりにと窓を開けたところ湿ってはいるが涼しげな風が部屋に流れ込み、今までの暑さが嘘のように止んだ。俺の今までの苦労はいったい何だ、何なんだ。