62 さらし者どもが夢の跡

久々に大学。というか久々に外出。シャバの空気は美味いぜ、刑期4日終えて。しかし外気は美味さ以上に、暑い。

聞いてない。俺パーカー着てるんですけど?春っぽい可愛いのじゃなくて秋っぽいイナゴみたいなやつ。防寒性能を全身で表現しつつイナゴも表現するやつ。暑い。汗ばむ。太陽が俺を蝕んでいる。SF的世界観なら俺がタイムトラベラーと間違われかねない程にファッションと季節が摩擦する。半年タイムトラベラー。もしくはドラキュラのような闇に生きる不死者か。ノスフェラトゥだ、ノスフェラトゥ佐藤だ。ノスフェラ藤だ。

自分なりにこの服装音痴っぷりに言い訳はある。病み上がりなのでお体を冷やすわけにはいかなくて。だが、この燦々たる日の下お体冷やすのには本格的にカーニバルでも催さない限りそれは達成され得ない。バスの中、景色に混じる半袖ポロの男たちを横目に汗を拭う俺。明らかな過剰防衛。いや、でも日没後になれば自然と冷え込むこともあるでしょう。今日は実験、どうせ帰るころにはとっぷりと日も暮れているでしょう。人は皆薄着、不死者的には好都合。生き血を求めて這いずり回るのにこのパーカーはマストアイテム。久々の食事にありつこうと思ったのも束の間、気付けばムショで臭い飯を喰らっている、これでは不死者ではなく不審者。

額とうなじに汗を浮かべつつ思い出したこと。そういえば実験室が妙に冷えるのだ、外気が快適温であるにもかかわらず。換気扇から何やら冷たい空気が流れてくる。これが危なめの薬品が気化した物でないことを祈りながら実験という名の苦行が先週から幕を開けたのを、バスの中で日光を呪いつつ思い出したのだ。ようやく意味の与えられたパーカー。謎の気体Xから身を守るため、俺はイナゴに扮しているのだ、と。かくしてネットを通じた遠大な言い訳は済んだ。めでたしめでたし。今の汗は未来への投資。さらに思い出されたのは北風と太陽、とかいう話。あれはインチキにも程がある。日が照ってりゃマントなんか着込む訳ないだろ。北風が勝つには、それこそ旅人が白骨化するまで吹き荒び続けるしかない。