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61 ムトーハップ

長いこと風呂に入っていない。

画面から立ち上るスパイシーさに人々が鼻腔に戒厳令を敷いたところで続けるのだけれど、何も理由がなくある種のテロ行為として入浴をボイコットしている訳ではない。風邪だ。明らかに喉が痛い。鼻が詰まっている。体の節々が軋み、ノイズをシュプレヒコール。それ即ちSOS。時折カーッと熱が腹の底から頭へ対流する、菌類関ヶ原の戦火に俺の体が焼かれている。

風邪ということで何をしてたか、風呂にも入らず大学にも行かず。ずっと寝てた。薬も飲んではいたが、果たしてそれをイベントに数えていいのかどうか俺には分からない。ただ寝ていた。いつもは悪夢にうなされながら微睡んだり目覚めたりだが今回は夢も見なかった。脳波か何かが足りなかったんだと思う。熱が上がってきたり、詰まった鼻の穴が左右入れ替わったりと自らの体の変化に一憂一憂。風邪をひいていなくとも、主に面倒だからという偏差値の低い理由で風呂に入らないこともたまにはある。そうした時には、ほぼ必ず自らの首回りからあふれ出す妖気に寝返りラリーしながら眠るのだが、鼻が詰まっていていまいち妖気を感じ取れないので上手く呼吸ができない以外は平和。代わりに振り乱した髪がセルフ妖気に反応し、妖怪アンテナよろしくバリ3立つ。

あと上手く歩けない。関節のねじが緩んだ。多分これは風呂関係ない。街を疾駆すれば臭気の腐海に沈められそうな俺の現状を見て生物兵器に利用することを考えていた独裁指向の方などはこの辺を汲んでご遠慮願いたい。トイレに行くのも一苦労、全身の螺旋を後退させながら便座に跨るその姿から漂う哀愁と哀臭。ベッドに戻るのも一苦労だが割愛。ねじは留まることを忘れて緩んでいく。横になる前に、と鼻をかんでふと思うのは、先刻俺が尻を拭いたのかどうか。何しろ元からべたべたしているのでよく分からない。疑わしきは拭せよ。再びトイレ。緩む。誰か俺のねじを締めなおしてくれ。優しく、それでいて大胆に。