59 マウストーマウス

マウスを買い替えた。起動して数分で、さもそこが人生の岐路であるかのごとく立ち止まるマウスポインタに嫌気が差したため。ああこいつはYahoo!Japanを死に場所に選んだのだなとひとしきり納得できたところで電気屋さんへ。大きさや操作感の参考にするため、パーカーのポケットに今しがた大往生の先代マウスを入れて出発。

周辺機器はマウスのコーナー、それほど広いスペースではなく右往左往しているうちに全貌が見渡せるほどだったが、商品のサイズからして結構な品ぞろえの様で。はて、違いが分からない。「bluetooth対応!」「一気に数千行をスクロール!」「表計算・Web閲覧に最適」など得意分野に差はあるようだが、それを目の当たりにしてもマウスというものに対して俺と生産者との認識の差が明確になるばかり。「迷ったらコレ!」の売り文句を掲げているものは600円、他のものよりも断然経済的でなるほど迷ったらコレだなあという感じ。最終的にはマウスはマウスだろ、と土器か何かと勘違いしているかのような原始人思考。触った感触が一番良いものを、ということでサンプルのマウスを片っ端からいじくり回すことに。クイクイ、カチカチ。ふむ。

ふむ、といわれても読者諸兄は何が何やら、と思うだろう。だがありとあるマウスは俺に、ふむ、以外の感情を芽吹かせることはなかった。確かに手に馴染む、動かすのに何ら不自由はない、クリックも軽快だ。だがそれらをすべて総合すると、ふむ、に落ち着いてしまう。哀しきかな、手に馴染んで当然、マウスとはそうした物なのだ。試しにポケットの中のマウスを繰ると、ふむ。数千行大納言も表計算の宮も押し並べて一様に「ふむ」におはす。加えてカラーバリエーションがどの型も白赤青黒の4種類しかないので今までの個性が全て振出しに戻る、これには帝も「由々しきことなり」と思し召しけり。

いつまでも帝ごっこをしていても仕方がないので適当なのを見繕って買って家路。どれも同じような手触りなので確かに迷ったが、600円モノはふむ感が足りないように思われたので却下。ところで、俺がマウスを使ってすることと言えばWeb閲覧しかない。ので、表計算・Web閲覧に最適なこいつこそが妃にとぞと思した。表計算するために生まれたものに満足に表計算させてやれないのは致死断腸ものだが哀しきかな、マウスとはそうした物なのだ。USBに接続して電源オン。クイクイ、カチカチ。ふむ。