41-エーデルワイス

喋る自販機の存在は知っていた。赤井英和リサ・ステッグマイヤー監修であろうと思われる関西弁や英語を流暢に話す上から200・200・200の機械仕掛けの異邦人に驚かされた記憶はある。しかし幾たびの遭遇を経るにつれて新鮮味が怒りに相転移、「まいど!」「How are you?」にはノーサンキューの三行半を。ここは日本の名古屋だということを肝を筆頭に五臓六腑に銘じておいて欲しい。

電子マネー対応型の自販機は今時はそう珍しくないであろう、見るからにそれはごく普通の自販機であった。強いて違う点を挙げるとすれば350ml缶が110円、500mlペットボトルが140円でお買い求めできるという経済的な特徴に尽きる。何の変哲もないコカ・コーラ社然としたラインナップが電灯によって午後7時の闇に浮かび上がるのみ、のはずだった。久々に不健康な物質を体が欲していたのでこの陳列の華ともいえるコカ・コーラを選択。ボタンを押してトレイからペットボトルを取ろうと屈むと、「ポ~ン、ピンポーン」という弱弱しい機械音。民家のチャイムとも思えたが、確かに目の前の自販機からの「おおきに!」代わりのかそけき感謝のサインであることは、よくよくみれば空いていたスピーカーの穴からも察せられる。鳴る自販機、というのは喋る自販機に比べればまあ存在に納得はいくのだがこんなにも消え入りそうな商魂の切れ端をちらつかされてはさしもの俺も。せっかくホームランを打って手術を受ける決意をした子供の術後経過が思わしくなかった、みたいなエンディングを見せられては、このコーラをどんな顔をして飲めというのだ。「おおきに!」の声がひどく懐かしく思える。