読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

37-カッコいいとは、こういうことだ。

日記

住宅街の細い路地をわざわざ選んで歩くのはバス停への近道だからであるが、冷たい風が家々の間を縫って吹きつけ私の妄想献立を鍋一色に染めていく。早いところ家に戻ろう、気持ち歩を速めると建ち並ぶ家のうち一軒を塗装をしているおじさんを前方に確認。すでに作業は終わり掛けであったらしく、塗装の際に塗料が付着しないためのビニールシートのようなもの(名称不明)を片付けるところだった。私が彼の横を通り過ぎようという瞬間、横凪ぐ風。ビニールシートは煽られ、コンクリートを埋め尽くさん勢いで私の足元に襲い掛かってきた。このままシートを踏ん付けようものなら「キケン!」な化学薬品の合わせ技である塗料に体を蝕まれること必至。横に退くこともできない、のっぴきならない状況ならのっぴきなるようにするしかない。タイミング良く跳んで、シートを躱す。かすかに擦れる音を立てながら迫り来るシートは死の波のようだった。タイミングを誤ればシートに足を絡めとられて二度と太陽を拝むことはないだろう。キーワードは赤、ヒゲ、Mの三つ。マンマミーヤの威勢のいい掛け声を心中に聞きながら、私の体は地球を離れた。

両足を揃えての着地は適わなかったので芸術点に減点があったと思われるがE難度の技を本番一発で決める強心臓。おじさんは特に私のことなど気にも留めていなかったらしく、すいませんの5文字で大スペクタクルにカーテンコール。九死に一生を得た私の活劇はここに幕を下ろしたのだが今思うのは、あの時の私はものすごくカッコよかったのではないか?ということだ。鳴りやまない無敵時のBGM。キノコ王国だって9時5時で救ってみせる。あの時ほど自分の運動神経がフルスロットルした経験は無い、そしてこれからも無いだろう。人生で一度の晴れ姿を、無感動な中年ただ一人の観客に留めるのはどうにも寂しいので、ここに記す。あの時の自分、マジカッコよかった。奇しくも今日の日付は。ギブミーチョコレート。